越境ECや海外販売で中国市場に商品を販売したいときや、中国語圏の顧客との接点を増やしたいと考えるとき、候補の一つとして挙がるのがWeChat(ウィーチャット)です。
WeChatは、中国国内でチャットアプリとして日常的に使われているだけでなく、企業にとっては、情報発信やカスタマーサポートなどに活用できるチャネルでもあります。日本企業が効果的に活用するには、利用できる機能や導入条件を把握しておくことが大切です。
この記事では、WeChatの基本からビジネス版の主な機能、ECでの活用方法までを整理して解説します。

WeChatとは
WeChatは、中国のIT企業Tencent(テンセント)が提供するコミュニケーションアプリです。中国では日常的に使われるサービスとして定着しています。中国語圏に向けたSNSマーケティングのチャネルとしても活用されており、情報発信や顧客対応、販促導線づくりまでを一つのアプリ内で進めやすい点が特徴です。
Tencentの報告(英語)によると、2025年9月末時点で月間アクティブユーザー数は14億人に達しています。日本でいうLINEのようなアプリと考えるとイメージしやすいですが、決済やミニアプリなどを備えた「スーパーアプリ」として紹介されることもあります。
WeChatには、次のような機能が搭載されています。
- Moments:近況や写真などを投稿できるタイムライン機能
- Official Accounts:企業やブランドが情報発信できる公式アカウント機能
- WeChat Pay:アプリ内で支払いができる決済機能
- Mini Programs:アプリを追加でインストールしなくても使えるミニアプリ機能
- Search:アカウントや情報を探せる検索機能
- Channels:動画コンテンツを配信・閲覧できる機能
このように、WeChatはチャットアプリとしてのみならず、情報を受け取る場、ブランドとつながる場、サービスを利用する場、支払いをする場として機能しています。
中国では、WeChatのことをWeixin(微信/ウェイシン)と呼びます。名称が異なるだけでなく、利用する地域やアカウントの条件によって、使える機能や表示のされ方が一部異なります。
WeChatのビジネス版とは
WeChatでは企業やブランドが顧客と接点を持つためのビジネス版も用意されています。ビジネス版アカウントの種類は、使う機能によってService Account、Official Accounts、Mini Program、WeChat Workに大別でき、組み合わせて使うことができます。

Service Account:サービス提供・顧客対応向けアカウント
Service Accountは、サービス提供と顧客管理に特化したアカウントです。商品・サービスの案内、顧客との接点づくり、問い合わせ対応、販促施策の実施などに活用できます。ECでWeChatを利用する際、中心となるアカウントと言えます。
たとえば、次のような使い方が考えられます。
- 商品やサービスの案内
- 顧客との接点づくり
- 問い合わせ対応
- キャンペーンや販促施策の実施
- 決済やMini Programと連携した導線設計
単なる情報発信にとどまらず、カスタマーサポートやサービス提供の窓口として活用しやすい点が特徴です。
Official Accounts:情報発信用アカウント
Official Accountsは、情報発信のためのビジネス向けアカウントです。ブランドや商品の紹介、コラムや読みものの配信、キャンペーンや新着情報のお知らせなどに活用でき、継続的に顧客との接点を作りたいときに役立ちます。
たとえば、次のような使い方に向いています。
- ブランドや商品の情報発信
- コラムや読みものの配信
- キャンペーンや新着情報のお知らせ
- 読者やファンとの継続的な接点づくり
販売や顧客対応よりも、情報発信やコンテンツ配信に重きを置いたアカウントです。
Mini Program:アプリ内アプリ
Mini Programは、WeChat上で使える「アプリ内アプリ」です。ユーザーは、別のアプリを新たにダウンロードしなくても、WeChat内のアプリでサービスにアクセスすることができます。
法人の場合、オンラインストアや予約システムをWeChat内に構築できるうえに、決済や共有機能などとも連携しやすいため、検索から予約、利用、購入、レビューまでの導線を短くしやすい点が特徴です。商品閲覧だけでなく、予約や会員登録などのアクションにつなげたいときにも活用しやすい機能です。
WeChat Work:企業内コミュニケーションツール
WeChat Workは、企業向けの業務管理ツールです。社内コミュニケーションや情報共有、業務運営の効率化に関わる機能が中心で、一般向けのWeChatで提供しているコミュニケーション体験を業務向けに最適化したツールと考えるとイメージしやすいでしょう。
たとえば、次のような使い方ができます。
- 社内コミュニケーション
- チーム内での情報共有
- 会議や予定の共有
- 文書やデータの共同利用
- 社内業務の管理
WeChat公式アカウントを開設する流れ
1. WeChat Official Platformにアクセスする
まず、公式ページ(英語)にアクセスし、[Register Now] のボタンをクリックします。利用目的にあうアカウントタイプを選びましょう。
2. メールアドレスとパスワードを入力する
登録に使うメールアドレスとパスワードを入力し、利用規約に同意してアカウント登録を始めます。
3. 企業情報を入力する
事業がある地域を選び、[Confirm] をクリックします。次のページで登録フォームに会社情報を入力します。以下の情報が必要です。
- 企業名
- 企業登録番号
- 管理者情報
- 管理者の証明書番号(パスポート、免許証など)
4. アカウント情報を入力する
地域、アカウント名、機能の説明、運営地域などを入力し、公式アカウントとして登録します。
5. アカウント認証をする
公式アカウント登録後、正式に利用を開始するには、アカウント認証が必要です。認証では、次の資料が必要になります。
- 登記簿謄本または営業許可証
- 担当者の本人確認書類
- 申請書
- 運営委任状
- 担当者名義の電話料金明細
- 会社の電話料金明細(社印付き)または銀行口座の明細(担当者名義の電話料金明細を提出できない場合)
- 商標登録証または商標使用許諾書などの商標関連書類(商標名義で申請する場合)
企業間の合併や企業名の変更により、登録済みの企業情報を変更する場合、再度認証の申請と認証費用が必要です。
6. 審査・支払いを行う
認証には、年間99ドルの費用が発生します。審査期間の目安は7〜15営業日かかるとされています。
必要書類や認証条件は申請主体や運営地域によって変わることがあるため、自社だけで進めるのが難しい場合は、WeChatの開設支援実績がある事業者や公式パートナーへの相談を検討しましょう。
WeChatをECビジネスに活用する方法
- 情報発信のプラットフォームとして活用する
- 問い合わせや接客の導線として活用する
- 自社ECサイトへの集客に活用する
- WeChat Payを決済手段として取り入れる
- 広告を使って認知拡大や集客につなげる
- ライブコマースを活用する
情報発信のプラットフォームとして活用する
Official Accountを開設し、新商品の案内、ブランドストーリー、商品の使い方、季節のおすすめなどを継続的に発信することで、商品やブランドを知ってもらうための接点を作れます。WeChat上に情報発信の場を持てば、ブランドに触れてもらう機会を増やすことができるため、認知拡大や購買意欲の促進、ブランドロイヤルティの醸成にも効果的です。
まずは、ブランド紹介や人気商品の魅力、利用シーンの紹介など、興味を持ってもらうための発信から始めるとよいでしょう。フォロワーのSNSエンゲージメントを高めるうえでも役立ちます。
たとえば星野リゾートは、写真や記事、動画などのコンテンツ配信でファンとの接点を作っています。インフルエンサーを起用したPRも実践するなど、WeChatを有効活用して認知拡大を図っている好例です。さらに、WeChat内で予約ができる仕組みも設けており、認知獲得からコンバージョンまでをスムーズにつなげる導線を実現しています。
問い合わせや接客の導線として活用する
Service Accountを活用すると、商品やサービスを案内するだけでなく、顧客からの問い合わせを受けたり、購入前後のコミュニケーションを取ったりする窓口を持てます。
ECでは、配送可否、在庫状況、サイズ感、使い方、キャンペーン内容など、購入前に確認したいことが出てくることも少なくありません。そうしたときにWeChat上で相談できる導線があると、疑問や不安を減らすことができます。まずは、よくある質問(FAQ)への案内や問い合わせ受付の窓口として活用し、購入前の接客につなげるとよいでしょう。
たとえば無印良品は、WeChat内にキーワードに応じた自動返信機能を用意しています。利便性の高いカスタマーサービスの実現に効果的です。
自社ECサイトへの集客に活用する
WeChatは、商品やブランドに興味を持った人を、自社ECサイトへ案内する導線としても活用できます。WeChatのOfficial Accountを情報発信の入口として、自社ECを購入の受け皿として使うことで、マルチチャネルでの顧客接点を設計しやすくなります。
具体的には、新商品の紹介投稿から商品ページへつなげたり、期間限定キャンペーンの告知から特集ページへ案内したりといった活用方法が考えられます。WeChat上で興味を持ってもらったあと、自社ECで詳しい情報を見てもらい、比較や購入につなげる役割として考えるとわかりやすいでしょう。
たとえば大丸松坂屋は、WeChat上でクーポンやメッセージを配信し、ECサイトへの誘導を図っています。サイトへの集客につなげ、新規顧客の獲得や購入率の向上に結び付けている好例です。
WeChat Payを決済方法として取り入れる
WeChatの電子決済機能「WeChat Pay」をECサイトの決済方法として導入しておくのもおすすめです。WeChatユーザーが購入しやすくなり、決済時のカゴ落ちを防ぎやすくなります。
越境ECだけでなく、日本に実店舗がある場合は、訪日中国人向けの決済対応として活用することもできます。実際にPayPayは、2025年9月からWeChat Payとの連携を開始し、全国のPayPay加盟店で利用できるようになったと案内しています。
顧客にとって使いやすい決済方法を用意しておくことは、顧客の利便性や売上の向上に欠かせません。
広告を使って認知拡大や集客につなげる
WeChatでは、情報発信や接客導線を整えたうえで、同社が提供する広告サービスを使って認知拡大や集客につなげることもできます。広告の配信面は複数あり、認知の獲得から比較段階、行動までマーケティングファネルの段階に応じて使い分けしやすい点が特徴です。
WeChatでは、次のような広告を出すことができます。
- 公式アカウント広告:企業やブランドが情報発信を行う公式アカウントの上部に表示される広告。潜在顧客への接触やフォロー促進に効果的
- モーメンツ広告:WeChatのタイムライン機能であるMomentsに表示される広告。日常的に見られるフィードに、バナーや動画、カルーセルなどの形式で商品やキャンペーンを訴求できる
- ミニプログラム広告:ミニプログラムの起動時や遷移時などに表示される広告。ミニプログラム内でのユーザー行動に基づき関連性の高い広告を配信できる
ライブコマースを活用する
Channelsでのライブ配信を利用したライブコマースも、WeChatをECに活用する方法の一つです。商品を動画やライブ配信で紹介し、そのまま興味を持ったユーザーを購入導線へ案内しやすくなります。文章や静止画だけでは伝わりにくい使い方やサイズ感、質感などを見せたいときにも向いています。中国向けマーケティングでは、KOL(Key Opinion Leader)と呼ばれる影響力のある発信者を起用し、商品紹介やライブ配信、認知拡大につなげる方法もあります。
なお、中国ではライブコマース市場の拡大にあわせてルール整備も進んでいます。プラットフォームに対してアカウント管理、情報安全管理、消費者保護、個人情報保護などの体制整備が求められ、さらに、トラブル時の証拠提出や、消費者の正当な要求への対応も必要とされます。中国向けにライブコマースを行う際は、配信だけでなく運営体制や販売ルールもあわせて確認することが大切です。

WeChat運用を成功させるポイント
中国語で継続的に発信する
WeChatでは、継続的な情報発信が重要です。新商品の案内、キャンペーン情報、商品の使い方、ブランドの背景などを定期的に発信することで、顧客との接点を保ちやすくなります。中国語圏の顧客に向けて運用する場合は、自然な中国語で投稿や案内ができる体制を整えておくと安心です。
WeChat以降の導線を整える
WeChat上で商品に興味を持ってもらえても、その先の導線がわかりにくいと購入にはつながりにくくなります。商品ページ、問い合わせ窓口、決済手段、店舗案内などをあわせて整えておくことが大切です。WeChatを入口とし、自社ECサイトや店舗を受け皿として考えると、マルチチャネルでの活用もしやすくなります。
役割を絞って始める
WeChatは、認知拡大、比較検討、問い合わせ対応、購入前後の接点づくりまで幅広く使えます。ただし、最初からすべてをやろうとすると運用が重くなりがちです。まずは情報発信、次に接客導線、その後に広告やライブコマースというように、マーケティングファネルの流れに合わせて段階的に広げると進めやすいでしょう。

WeChatの利用を始める際の注意点
国や地域によって利用条件や評価が異なる
WeChatは広く使われている一方で、利用される地域によって規制や扱いが異なるため、ビジネスで活用する際はその前提を理解しておくことが大切です。たとえば、次のような事例があります。
- インド:2020年にWeChatを含む中国製アプリが禁止となる。
- アメリカ:2020年にトランプ政権がWeChatの利用禁止を打ち出したが、その後バイデン政権が撤回。一方で、一部の州や公的機関では、政府支給端末での利用制限が続いている。
- カナダ:2023年に政府支給端末でのWeChat利用が禁止となる。
なお、日本では現時点でWeChatの一般利用を禁止するような規制はありません。
通信の暗号化は限定的である可能性がある
WeChatの通信はすべてがエンドツーエンド暗号化ではないと、複数のメディアに指摘されている点には注意が必要です。暗号化されていない場合、通信は途中で保護されていても、メッセージ内容をサーバー側で復号できてしまうリスクがあります。
そのため、個人情報や決済情報などをチャット上でやり取りしない運用にしたり、不正ログイン対策などセキュリティ対策を強化したりするなど、アカウントの管理体制を整えておくことが重要です。
中国特有の法制度や本人確認の仕組みがある
WeChatを利用するうえでは、中国の法制度や本人確認の仕組みも理解しておくことが大切です。たとえば、中国の国家情報法は、組織や個人に国家の情報活動への協力を求める条文を含んでおり、海外ではデータアクセスの観点から懸念材料として取り上げられることがあります。
こうした前提をふまえ、データの取り扱いや運用ルールを整理したうえで利用することが大切です。
まとめ
WeChatは、中国で広く使われているコミュニケーションアプリであり、情報発信、顧客対応、決済、広告、ライブコマースなど、さまざまな形でビジネスに活用できます。特に、中国語圏の顧客との接点を作りたい場合や、中国市場に向けてECを展開したい場合には、有力な選択肢の一つです。
一方で、WeChatの機能や開設条件には、中国国内向けの前提が含まれていることもあります。日本企業が活用を検討する際は、使える機能や申請条件を確認しながら、自社の目的に合った使い方を選ぶことが大切です。まずは、公式アカウントを使った情報発信や接客導線づくりなど、取り入れやすいところから始めるとよいでしょう。
また、WeChatで日本語に翻訳されている部分は多くありません。必要書類や認証条件も、申請主体や運営地域によって変わることがあります。自社だけで進めるのが難しい場合は、WeChatの開設支援実績がある事業者や公式パートナーへの相談も検討しましょう。
WeChatに関するよくある質問
WeChatとLINEの違いは?
WeChatは、チャットや通話だけでなく、決済、ミニアプリ、検索、動画視聴などもひとつのアプリ内で利用できる点が特徴です。LINEのようにコミュニケーションアプリとして使える一方で、より多くの機能を備えた「スーパーアプリ」として活用されています。
WeChatとWeixinの違いは?
WeChatとWeixinは、基本的には同じTencentのサービスです。中国では微信(Weixin)という名称が使われ、中国以外ではWeChatと呼ばれています。
ただし、名称だけでなく、利用する地域やアカウントの条件によって、使える機能や表示のされ方が一部異なる場合があります。そのため、活用を検討する際は、自社が使いたい機能を実際に利用できるか、都度確認しながら進めることが大切です。
日本企業でもWeChatをビジネスに活用できる?
日本企業でもWeChatを活用することはでき、実際に、情報発信、問い合わせ対応、決済、広告などに利用されている事例が多くあります。
ただし、WeChatは中国国内向けの機能や条件が前提になっている場合もあるため、開設条件や必要書類、利用できる機能は事前に確認することが大切です。
WeChatは有料?
WeChatアプリを個人アカウントで利用する場合、基本は無料で利用できます。ただし、ビジネスで公式アカウントを開設・認証する場合は、認証費用がかかります。
文:Taeko Adachi





