近年、パーソナライズドマーケティングを採用する企業が増加しており、顧客一人ひとりのニーズに合わせた顧客体験や商品提案の重要性が高まっています。その背景には、市場のニーズが多様化し、従来のマーケティング施策では成果を出しづらくなってきたことや、消費者の行動や嗜好などのデータを活用したマーケティングが実現できるようになったことが挙げられます。
EC事業者は、顧客満足度向上や収益の増加が期待できるパーソナライズドマーケティングに関する理解を深め、積極的に対応していくことが望ましいでしょう。この記事では、パーソナライズドマーケティングの意味とともに、実践方法や実例も紹介します。顧客一人ひとりに合わせた効果的なマーケティング方法を学びましょう。

パーソナライズドマーケティングとは
パーソナライズドマーケティングとは、顧客一人ひとりの属性や嗜好、購買行動、行動履歴に基づき、個別に最適な情報を提供するマーケティング手法の一つです。個々のニーズやタイミングに合わせて、メッセージを最適化することで、顧客体験や顧客ロイヤルティの向上が期待できます。
近年ではデジタルデバイスの一般化に伴い、カスタマージャーニーが多様化しているため、顧客の趣味や嗜好に合わせたマーケティング施策の実施が重要です。また、データ分析技術の向上により、パーソナライズドマーケティングを活用できる場面も増えています。

パーソナライズドマーケティングを活用すべき理由
パーソナライズドマーケティングを活用するメリットは、顧客満足度の向上や売り上げの増加につながることです。
消費者のパーソナライズされたブランド体験に関する2024年の意識調査(英語)によると、回答者の約64%が自身の欲求やニーズに合わせて調整してくれる企業から購入することを好むと回答しました。
また、同年に実施されたマーケティング担当者を対象とした調査(英語)では、回答者の約96%がマーケティングのパーソナライゼーションによって売り上げが増加したと回答しました。この結果からも、パーソナライズドマーケティングで消費者のニーズに沿った顧客体験を提供することで、顧客満足度や顧客ロイヤルティの向上、収益の増加が見込めます。
8つのパーソナライズドマーケティング戦略
- ゼロパーティデータの収集
- ECサイトのパーソナライズ
- メールのパーソナライズ
- パーソナライズクーポンや限定の割引オファー送信
- 位置情報マーケティングの活用
- ウェブ広告のパーソナライズ
- AIチャットボットの活用
- パーソナライズ商品の提供
1. ゼロパーティデータの収集
顧客理解を深めるためには、自社サイトの購入履歴などから収集できるファーストパーティデータの活用に加え、顧客が自らの意思で提供してくれるゼロパーティデータを収集することが重要です。ゼロパーティデータの収集には、主に下記のような方法があります。
- ウェブアンケート:顧客の興味や関心について、具体的な質問と選択肢を設けます。回答にかかる時間を極力少なくすることで回答率が高まります。回答者には、ポイント付与などのインセンティブを与えることも有効です。
- 購入後のフィードバック:商品購入後にフィードバックを依頼し、満足度や改善点を質問することで、商品に対する顧客の率直な意見を直接収集できます。
- 診断コンテンツ:複数の設問と選択肢を用意し、回答を分析しておすすめの商品やサービスを表示させます。自分に合う結果を知りたいという興味から回答へのハードルが下がりやすく、楽しみながら答えられるため効果的です。
ゼロパーティデータを収集する診断コンテンツの一例として、航空会社ジェットスターの旅行先診断が挙げられます。出発地と顧客の嗜好を探る質問を設け、回答結果からおすすめの旅行先を提案しています。さらに、航空券の最安価格を表示して日程検索や予約を後押ししたり、セール情報を案内するメルマガ登録を促したりしています。
2. ECサイトのパーソナライズ
ECサイトのパーソナライズ化は、顧客体験の向上や、クロスセルの促進に効果的です。ECサイトでは、ユーザーの登録情報や検索・閲覧履歴をもとにしたおすすめ商品に加えて、似た属性の顧客が購入した商品も表示されるレコメンド機能が搭載されていることがあります。自分がチェックした商品の類似商品を表示することで、顧客は検索しなくても複数の商品を比較検討できるようになります。
Amazonでは、各商品ページの下に「この商品に関連する商品」「この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています」という文言とともに、複数のおすすめ商品が表示されます。類似商品を比較検討したい場合、自分で検索する手間をかけずに別の商品ページに移動できるため、顧客体験の向上につながります。
3. メールのパーソナライズ
メール配信システムを活用して、メールの内容や送付タイミングを顧客に合わせて調整し、効果的なメールマーケティングを行いましょう。以下のようなパーソナライズが可能です。
- メルマガ:属性や興味などでセグメント化し、内容や配信時間を変更する。
- トリガーメール:ウェブサイトでのユーザーの行動に合わせて配信する。商品をカートに入れたものの購入せず離脱したユーザーにリマインドしたり、商品を検索したユーザーに類似商品を紹介するなど
- 記念日メール:誕生日など記念日にクーポンや割引オファーを配信する。
どのメールを開封したかによってユーザーの趣味嗜好を分析することも可能です。開封率の低い顧客には、前回とは異なる内容のメールを送り、反応を確認します。開封した顧客には、類似の商品でさらに興味を持たれそうな内容のメールを送りましょう。
ShopifyでECサイトを運営している場合は、Shopify Messagingを利用するとメールの作成から送信、管理までを一元化できます。Shopify Messagingを活用して、メールマーケティングをパーソナライズしましょう。
BtoB企業のマーケティングを支援するビッグビートは、メルマガのパーソナライズ化で成功しています。実名の見込み顧客を興味ごとにセグメント化し、内容を調整したメルマガを配信したところ、イベント特設サイトへの訪問件数が1.5倍以上増加しました。
4. パーソナライズクーポンや限定の割引オファー送信
ECサイトでカートに入れたり、お気に入りに追加したりした商品に期間限定の割引オファーを送付することで、顧客ロイヤルティの向上につながります。ほかにも、誕生月や記念日などの購入でポイントを贈呈するなど、顧客の状況に合わせた特典を送ることも有効です。購入金額に応じて、初回利用時、休眠顧客への復帰時に利用できるクーポンの提供なども有効です。
ZOZOTOWNは、会員がお気に入りに追加した商品を「あなただけのタイムセール」として24時間限定の割引オファーを提示しています。LINEの公式アカウントを友だち登録するとセールの通知を受け取れるため、商品を思い出させるきっかけとなり、割引により購買行動を後押しするマーケティングの好例です。
5. 位置情報マーケティングの活用
位置情報マーケティングは、消費者の地理的な位置に基づいて、関連する情報を提供する方法です。GPSやWi-Fi、郵便番号などから取得した位置データを活用し、天気に基づいて割引を提供したり、ターゲットが関心を持ちそうな商品情報を配信したりすることで、顧客の場所とタイミングに適合する情報提供が可能になります。位置情報をもとに、特定の屋外広告周辺を通過したターゲットに関連するデジタル広告を配信することも可能です。
ワコールは来店数の増加を目的に、商業施設の周辺にいる顧客に対し、その施設で自社商品の取り扱いを知らせる広告を配信しています。過去に商品紹介サイトに訪問したユーザーに対して、同様の広告を出したところ、店舗での購入者アンケートでは「ウェブを見てきた」と回答する人が増加していました。
6. ウェブ広告のパーソナライズ
パーソナライズド広告を活用することで、ターゲット層の潜在顧客にアプローチでき、効率的に商品の認知を拡大できます。SNSでのいいねなどの反応や、ウェブサイトの閲覧履歴に基づいて、視聴者一人ひとりに合った広告を表示可能です。プラットフォームで自社商品のターゲットの属性や年齢、視聴する時間等をターゲティングすると、効果的に自社商品の情報を届けられます。また、ECサイトで一度閲覧した商品を他のサイトの広告として表示させるリターゲティング広告も、商品を思い出させ、購入を再検討させる後押しになるため効果的です。
JAL(日本航空)は、非会員を主なターゲットとして、深層学習を実装したリターゲティング広告を活用しています。サイトから離脱したユーザーに広告を表示することで、一般的な機械学習のリターゲティング広告と比較してコンバージョン数が1.55倍、売上額は3.72倍に増加し、購入者の中で非会員が占める割合が2〜3倍に増加しました。
7. AIチャットボットの活用
カスタマーサポートでAIチャットボットを活用することで、問い合わせに対して過去のサポート履歴を加味して最適な回答を提示したり、顧客の購入履歴に基づいたおすすめ商品を提案したりできます。問い合わせ対応のための人件費削減や業務効率化に寄与することに加え、24時間対応できるため、いつでも顧客のサポートが可能になる点で、顧客満足度の向上につながります。
UNIQLOのアプリに搭載されているAIによるチャット接客機能、「UNIQLO IQ」は、注文やキャンセルに関する問い合わせ以外にも、季節や用途に合わせたスタイリングやおすすめの商品、人気商品の紹介などもしており、対話で買い物をサポートすることで成果をあげています。IQの導入から2ヶ月程度で、問い合わせの半数以上が電話やメールからチャット経由に切り替わりました。問い合わせへの対応件数が前年比で約2倍に増加し、業務効率化が実現しています。
8. パーソナライズ商品の提供
購入前の診断やアンケート、購入履歴などで収集した顧客の趣味や嗜好などのデータから、商品自体をパーソナライズすることもできます。好みに合わせた自分専用の商品を提供することで顧客は特別感を感じられ、顧客満足度の向上が見込めるでしょう。ファッションや書籍、食品、スキンケアなど様々な分野でパーソナライズ商品が販売されています。
フレグランスベンチャーのCODE Meee(コードミー)は、香りのパーソナライゼーションで2020年度の売り上げ前年比400%増を達成しました。顧客のライフスタイルに合わせて提案されるアロマは、3000パターン以上ある香りの中から分析されて一人ひとりに最適なものが届けられます。また、ビジネス向けの香りの空間プロデュースは、「従業員満足度を上げたい」「生産性が上がるような仕組みをリアルの場で設計したい」などのニーズに合わせて提供されています。利用した会社からは社員のモチベーションの向上や、採用コストや離職率の低下が報告されました。
トップ企業のパーソナライズドマーケティング成功事例
ゆこゆこネット:閲覧した宿を印刷したはがき送付でレスポンス率2.3倍
温泉旅館やホテルの予約サイト、ゆこゆこネットは顧客の閲覧履歴に基づき、一人ひとりに最適な宿泊施設をはがきで案内するダイレクトマーケティング施策が成功を収めています。顧客がゆこゆこネットで見た宿をはがきに印刷し、ゆこゆこネットのURLとQRコードを掲載したほか、ネット限定で使用可能なクーポンを掲載することで顧客の興味関心を喚起し、レスポンス率が2.3倍にアップしました。
Spotify:AIがおすすめする自分好みの音楽で市場シェア首位を維持
世界の音楽サブスク加入者数1位のSpotifyは、「まだ知らない自分の好きな曲」を発見できることで人気を集め、安定的に市場シェアの首位をキープしています。ユーザーの再生、保存、お気に入りに追加、シェア、スキップといった行動をAIが学習して嗜好を分析し、好みが似ているユーザーの傾向からおすすめのプレイリストを提示するなどのパーソナライズにより、競合と差別化している点が特徴です。
エノテカオンライン:ワインの味わい情報をデータ化してレコメンドし、コンバージョンが1.5倍増加
日本最大級のワイン通販サイト、エノテカオンラインでは、ワイン専門店での購買体験をネット通販で再現するパーソナライズドマーケティングを実施したことで、商品購入に至ったコンバージョン数が約1.5倍に増加しました。同社では、ワインの産地や品種などの属性情報だけでなく、味わい情報を数値としてデータ化し、顧客の好みに合うレコメンドを提示しています。さらに、ワインを理解し選びやすくするために、ワインの産地、タイプ別などの記事の特集を閲覧履歴に基づいてパーソナライズしています。
顧客データの取り扱いに関する注意点
パーソナライズドマーケティングを実施するには、顧客の個人情報と行動データの活用が不可欠です。一方、データの管理には透明性を確保し、顧客のプライバシーに十分に配慮することも重要です。
日本プライバシー認証機構の2025年の消費者の個人情報保護に対する意識調査によると、企業による個人情報の取扱いに「強く不安を感じる」もしくは「やや不安を感じる」との回答が67.7%に上りました。消費者からの信用を得るためにも、企業は個人情報の保護に注力することが大切です。また、個人情報保護法やデータ保護法などの法律や規制が守られていない場合、罰金や損害賠償などの法的措置を受ける可能性があるため、自社のビジネスに関連する法律を正確に把握しておきましょう。EC事業者は、個人情報保護法を遵守したプライバシーポリシーを作成し、サイト上で公開する必要があります。
まとめ
パーソナライズドマーケティングは、顧客一人ひとりに合わせた最適なメッセージや体験を、最適なタイミングで提供するマーケティング手法です。顧客の好みや関心などのデータを収集し、ECサイトやメルマガ、ウェブ広告などのパーソナライズに活用することは、新規顧客の獲得や長期的な顧客関係の継続に役立ちます。個人情報の取り扱いやプライバシーに配慮することが重要です。顧客ロイヤルティの向上や収益の増加につながるパーソナライズドマーケティングは、現代のビジネスに必須だと言えるでしょう。
この記事を参考に理解を深め、顧客データを活用したマーケティングを実践してビジネスの発展を目指しましょう。
よくある質問
パーソナライズドマーケティングとは?
パーソナライズドマーケティングとは、顧客一人ひとりの属性や嗜好、購買、行動履歴などを分析して、最適なメッセージや体験を最適なタイミングで提供するマーケティング手法です。
パーソナライズドマーケティングは効果がある?
はい、効果があります。2024年の調査(英語)では、回答したマーケティング担当者の約96%がパーソナライズドマーケティングを実施して売り上げが増加したと回答し、効果が証明されています。
パーソナライズドマーケティングの成功事例は?
- 顧客がゆこゆこネットで見た宿をはがきに印刷し、ネット限定で使用可能なクーポン添付でレスポンス率が2.3倍に増加したゆこゆこネット
- AIを活用した顧客の嗜好に合わせた音楽のおすすめプレイリストで、世界の音楽サブスク加入者数1位を維持し続けるSpotify
- ワインの味わい情報を数値でデータ化してレコメンドし、購入に至るコンバージョンが1.5倍になったエノテカオンライン
文:Tomoyo Seki





